コラム : ITちゃんの背後にあるもの

13年後のまえがき

ITちゃん20周年に合わせてホームページを整理していたら、古いコラムが見つかりました。

今となっては意味不明の部分もありますが、当時の雰囲気を感じられる部分もあるので再掲します。

この執筆時点からネットがさらに日常化した結果、予想外のベクトルも生まれ、フェイクニュースで民意が形成されたり、 違法な巨大ビジネス が生まれたりと、大きなマイナスの影響力を発揮するようにもなりました。

しかし、嬉しいことに「ねとらぼ」は、いい意味で変わらず「ねとらぼ」で、ITちゃんも変わらず、ITちゃん。 ネット的な優しさやいいものを信じていて、正しい情報を伝えよう、頑張っている人を応援しようとしています。

これからもITちゃんとねとらぼを応援できたらなと思います。

ITちゃんの背後にあるもの

2009/12/1

ITmediaは、IT総合情報ポータルサイトです。エンタープライズ系、ビジネス系の固めの記事から、開発者向けの記事、ゲームやネット界での柔らかめの記事まで IT をキーワードにさまざまなジャンルの記事を提供しています。同様のサイトは他にもありますが ITmedia を ITmedia たらしめているものが、ネットに対する揺ぎない信頼感でしょう。

この姿勢を最初に作ったのはガンダムマスターこと中村琢磨記者でした。彼はメディアの世界にあって当時まだ珍しい 2ちゃんねるに対しての受容の姿勢からの紹介記事を署名入りで書き、一部で高い評価を受けました。さらに硬派なポータルサイトZDNet Japanにあってもちょっとした息抜きはありかな、とガンダム系の記事を意図的に混ぜていきます。その混ぜ方は半端ないオタク度を全面に出したもので、読者もまた敏感に反応します。反応が更なる記事を生み、またそれが別の反応を呼び...。「ところで」の一語で話題を転換できるまでに私物化したアクセスランキングに不思議と内外で文句を言う輩はおらず、どころかランキングの記事が再度ランクインするという、本末転倒な、なぜこうなった?的な不思議な現象まで発生します。ガンダム系の記事でアクセス数を増やしながら他の記事も読ませる。そんな戦略があったのかどうか知りませんが、私がZDNet Japanを意識したのはこの頃です。ガンダムに詳しくはありませんでしたが何か面白いことをやっているな、という雰囲気は強く感じられ、ネットを肯定的に描く記事群に、それまでIT社会の悪い面ばかりを報道する既存マスメディアのステレオタイプぶりに辟易としていた私(達)を歓喜させるのでした。

こうした流れの中で生まれてきたのが「ZDちゃん」でした。そのまんまのネーミングと楽屋落ちの4コママンガを掲載するにはそれなりの勇気が必要だったはずですが中村琢磨記者の利用に長けた小林伸也記者ですから、時期と機会を狙っていたのでしょう。スペックの羅列に留まらない魅力的な紹介、全く新しいタブレットPCの使い方の提案、そして笑えるマンガ。当然のごとく「ZDちゃん」はネットで好意的に受け取られ、また提供会社のワコム等からも好意的に受け取られます。ZDNetはまた一歩、我々に近づきました。

ところが「ZDちゃん」の連載などと冗談も出る最中に中村琢磨記者の突然の退社で、ネットは少なからず揺れ、またZDちゃんも不遇の時代を迎えます。ZDNet Japanも、米ZDNet社の事業変更に伴い消滅、新たなブランド「ITmedia」を起こすべくさまざまな努力を強いられます。この大変な時期に入社したのが岡田有花記者でした。自虐ネタでいきなりメジャー入りする彼女ですが、その輝かしい1年目の功績の影にもう一つ、注目すべき活躍こそ「ZDちゃん」もとい「ITちゃん」の復権でした。すっかり置き去りにされていた「ZDちゃん」を自ら描き、あるいはを開いて再び表舞台に引き上げ、名前の変更さえ周知に通知するのでした。ZDNet Japan から ITmedia への流れは、我々読者にとってさほど大きな変化に見えませんでした。恐らく岡田有花記者の強烈なインパクトがフックとなり、2つのおおきなブランド名をしっかり結びつけたのでしょう。また「ZDちゃん」が「ITちゃん」へと名前を変えることで、ブランド名変更の広告塔的な役割を果たしたのも見逃せません。そして2004年1月8日 ITmedia が生まれ、「ZDちゃん」は「ITちゃん」へと生まれ変わります。

中村琢磨記者が作ったネットに対する信頼感を全面に出す記事作りは、直前に発表されたマニフェスト「IT戦士志願者の主張」により、宣言した岡田有花記者だけでなく新生ITmedia全体に遺伝子として行き渡ったかのようでした。4コママンガやガンダムにたよってムード作りをせずとも、ITそのもの、あるいはその周辺の人々、流行、社会の動きでネットメディアを運営していくこと。
「これだけネット媒体が普及しても、まだまだマスメディアの影響力にはかなわないんですね。IT社会の悪い面を伝える報道ばかりが注目されるし。私としては、ITのもっと明るい面をたくさん記事にしていきたいんです(日刊サイゾー)」
ITmediaではさまざまな人々が実に温かく取り上げられますが、とりわけ岡田有花記者の取り上げる有名無名の人々は、独特のインタビュー技法とテープ起こしもあって実に魅力的です。たとえば正体不明の感もあったひろゆき氏でさえ、わずかながらも内面を描くことに成功するほどですし、生協の白石さんに至ってはネットメディアから既存マスメディアへの逆の流れさえ生み出します。一方でネットに無理解な人間への攻撃は容赦なく、鳥越俊太郎へのインタビューと反論は彼女のネット内での評価を決定的にしました。すなわちITmediaの広告塔は「ITちゃん」から岡田有花記者にバトンタッチされ、ITちゃんは不要になったのです。

IT戦士とITmediaの戦いは続きました。

そして2008年4月、「記者の日常気になったことを毎日伝えるサイト」としてねとらぼが生まれ、アイコンのキャラクターとしてITちゃんが突如、復活します。当然、最初の記事は岡田有花記者ネタでしたが、そこにいる ITちゃんはこれまでの戦う女子校生ロボットから一転、春夏秋冬の背景を前に、愛らしい笑顔を振りまく少女に変化していました。この何もかも昇華しきった笑顔は何を意味するのでしょうか。

もともとはありがちなロボットキャラだったZDちゃんから、ここまでの変化を単純なイメージチェンジと取るのは安易に過ぎるでしょう。シコタホA氏の成長だけで語るのも不十分です。そこにはITちゃんが、あるいはITmediaがこれまで戦ってきた既存メディアのネットに対する不信感、不安感、獏とした恐怖等との戦闘の終わりとしばしの休息、達成感の感受を表しているように思えます。ネットを取り巻く社会全体の成熟と、それを支援し続けてきたITmediaの喜びがITちゃんの笑みには込められているように。今や犯罪の温床として匿名掲示板を持ち出す人は少数です。10年前なら確実につぶされていたニコニコ動画では与野党を問わない政治家が嬉々として便所の落書きだったはずの匿名意見に応えます。ここまでには長い道のりと繰り返される議論がありました。その議論を少なからず支えたのがさまざまな人間、団体、会社から本音を引き出したITmediaの記事やインタビューやコラムだったと思うのです。ITちゃんの笑顔の向こうに、ITmediaの、ネットに対する揺ぎない信頼感と楽観的な未来を感じるのです。

ITちゃんやIT戦士の見えない相手との戦いはある一つの終焉を迎え、次のレベルに達しました。が、このコラムを書き終える直前に更新された新しい「ねとらぼ」アイコン、「せかにゅ」アイコンのぐぬぬを見ていると、まだ戦いは終わっていないようです。私も微力ながら彼ら、彼女らの手助けをしたいと思います。



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